桜の開花の頃から5月中旬頃までの間、大量の「黄砂」が飛散しています。私はその影響で花粉症的になり、とても不調です。この頃、春の女神と呼ばれるギフチョウなど昆虫を探しに行くと、さらに重症の花粉症患者のようになってしまいます。
ギフチョウの様子を知りたくて探しに出かけた人達に聞くと、京都盆地側の従来の生息地では姿を見なくなったとよく聞きます。地球環境が温暖化しているからなのか、2月、3月に高温が続くと、飼育下のギフチョウの蛹も羽化を始めます。20度近い気温が1週間も続いてしまうと、ほとんどの蛹が羽化してしまうそうです。
最初に羽化するのは♂が多く、♀は少し遅れて羽化します。2月~3月に自然界で異常な気温で羽化してしまって天候の良い日に飛び回ったとしても、陽だまりには吸蜜植物であるスミレやショウジョバカマの開花をまだ見られません。そうだとすると、花の咲く場所を探して吸蜜しなければ、ギフチョウはやがて死んでしまうのかもしれません。
今まで季節感に異常を感じなかった頃には、毎年サクラやタチツボスミレの開花にほぼ合わせたようにギフチョウが羽化しました。生息地の野山で♂の羽化が始まって1週間ほど経つと♀の羽化が始まり、その後1週間ほどでカンアオイへの産卵が始まりました。
その頃、食草であるカンアオイの葉はまだ小さく、合掌する手かアサリに茎がくっついた形のように見えます。私が見たギフチョウのメスは、合掌した形のカンアオイの葉の上辺に爪をかけてぶらさがり、食草に尾端をつけ手前側や裏側となる位置に産卵していました。
「地球温暖化」と言われてから、平地のカンアオイは予想外に葉の成長が早いようです。大きく開いたカンアオイの葉の端にギフチョウがぶら下がると、自分の体重でだらりとつかまることしかできません。まるで力なく鉄棒にぶら下がったと同じで、いくら産卵しようと腹部を曲げても胸の位置までしか産卵管のある腹部先端が届きません。
京都盆地の内側でギフチョウが見られなくなったことについて、私は「うまく産卵ができないから、山地帯の気温の低い地域で、まだ開ききっていないカンアオイの自生地を探そうとしているのかな」という気がしました。
近年、冬になってもタンポポやスミレの花が見られるほど平均気温が上がっています。温暖化と言われるようになってからは、各地で確実にシカが増え続けています。増加の原因は、冬の積雪量が少ないので草本や低木が雪に覆われず、シカが容易に草を得ることができるからです。冠雪しない上暖かければ簡単に採餌することが可能で、そのために餓死するシカが減ったからだそうです。
冬季に餓死することもないのなら、子どもの死亡率も当然減少します。それが繁殖率を大きく押し上げているようです。増え続けたシカは地表の草本類を食べつくし、北山方面、芦生界隈の山地帯も、雑木林の下草もガレ場のように石がむき出しです。
このようになると、低木や地表の植物を食草とする昆虫は、種の維持ができません。シカの出現する地域では、希少な昆虫ばかりでなく、これまで普通種と言われた昆虫までもが地域的に全滅する気がしてなりません。
シカが出没しない地域では南方系の昆虫が増え、温暖化と言われる前の昆虫が減っているようです。京都市内には、南方系由来の蝶としてナガサキアゲハ、ツマグロヒョウモン、アサギマダラ、ムラサキツバメ、ソテツシジミ、クロセセリ、オオシロモンセセリ、クロコノマ、ウスイロコノマなどが確認されています。
気温と共に北上するツマグロヒョウモンとアサギマダラは、40年~45年前には8月中下旬に愛宕山の山頂まで出かけないと見られなかったのです。それが今では、ツマグロヒョウモンは5月から新成虫が飛翔し、アサギマダラも5月中旬頃から出現します。
冬季の気温が低いとしても、比較的暖かな、雪もかからない場所を選んだとすると、その昆虫は確実に越冬できるはずです。
これからも、南方系昆虫の飛来と定着、分布の拡大が、温暖化の兆候としてシグナルを発してくれる気がします。皆さんも庭を訪れる昆虫に、そっと目を向けてみてください。
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